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2011年10月27日 (木)

セーフティネットが正社員を守る

 今回も分断支配につながるお話ですが、テーマはセーフティネットです。セーフティネットは人々のより質の高い生活を実現するために、政府や自治体が実施する社会政策です。セーフティネットと聞くと一部の困っている人が利用するものだと思いがちですが、セーフティネットは社会に生きるすべての人になくてはならないものなのです。

 というのも、セーフティネットは困窮している人の支援策だけを指す言葉ではないのです。セーフティネットは大きく3段階に分かれます。1つめは雇用のセーフティネットです。雇用が確保され、安定的に収入がある状態もセーフティネットと解釈します。2つめは雇用保険です。雇用保険は失業した際に再就職までの生活を支えるセーフティネットです。3つめのセーフティネットは生活保護です。これは何らかの理由で働けなくなり、生活のための資産がなくなってしまった人達の生存権を守るためのセーフティネットです。

 さて、セーフティネットでこれだけ手厚く保護されているのだから、この社会はなんて生きやすいのでしょうとお思いかもしれませんが、この国ではこのセーフティネットが穴だらけで、正常に機能していません。雇用のセーフティネットに関して言えば、不当な解雇によりいきなり職を奪われたり、長時間勤務で心身を病み働けなくなったりと、労働法を適切に運用していれば防げるはずの事態が起きています。雇用保険に関しては、本来受給できるはずの人の21.1%しか受給できていません。しかも、2000年の法改正でそれまで最高300日だった給付日数が180日に短縮されました。EU諸国では失業保険の受給要件を満たさない失業者に対し、失業手当を支給する制度があり、イギリスとフランスでは無期限、スウェーデンでは最高600日受給できます。しかし、日本にはそのような雇用保険の穴を埋める制度はありません。生活保護に関しては、本来保護が必要な人の19.7%しか受給していません。雇用保険と同様5人に1人です。なぜこれほどまでに低い捕捉率(給付が必要な人数のうち、実際何人に支給しているかの割合)に止まっているかと言えば、自治体が申請を受け付けずに追い返す「水際作戦」が横行していることがあるでしょう。こうして生活保護を得ることができなかったできない人は、どんなに厳しい条件でも日雇いや住み込みの仕事しか得られず、再起が不可能な状況に陥ってしまいます。信じられないようなことですが、これだけ経済力を持つ日本でも年間1000人以上の餓死者が出ています

 セーフティネットの穴について、こちらのブログに詳しくまとめられていますので、ぜひご参照ください。
 『貧困』を考える-2.捕捉率19.7%
 『貧困』を考える-4.雇用保険受給率21.1%
  ↑こちらのブログの貧困に関する一連の記事は、現状を詳しく分析し深い考察がなされています。しつこいですが、ぜひ一読を。

 このように、セーフティネットが正常に機能していない社会では、今は安心して生活できている人も何かの拍子に一度道を踏み外すとどん底まで落ちてしまいます。そんな社会を「すべり台社会」と呼びます。このような社会では、誰しもが生活困窮状態に陥る可能性と背中合わせになります

 ここまで、三段階のセーフティネットを紹介してきましたが、このうち問題になるのが第三のセーフティネット―生活保護です。なぜ生活保護が問題になるかと言えば、その財源が税金だからです。働いている人が納めた税金が働けない人の生活を支えるわけですから、単純にその面だけを見れば働いていることが損のように感じ、できれば税金をそんな用途に使わないでほしいと思う人もいるようです。働く能力があるか否かの判定、働く意思の有無による支給すべきかどうかの判断に関しては、議論の余地が多く、ここでは触れないでおきます。ただ一つ言えることは、セーフティネットのための財源を支払うことは、働いている人の安定した生活を守る上でも重要だということです。

 セーフティネットから抜け落ちた人がどうなるか考えてみると、その仕組みがわかります。そういった人達は、路上生活を送るか、犯罪に手を染めるか、もしくは死ぬか、という道しか残されていません。現在は貧困率の高まりが犯罪の増加を促すという事態には落ちいていないようですが、今後法を犯さなければ生きていけないという人が増えれば、強盗や誘拐といった犯罪が増える可能性はあります。そうなれば、この社会は誰にとっても生きにくいものになるでしょう。また、セーフティネットから漏れた人達は、生きるためにはどのような条件でも働かざるを得ず「NOと言えない労働者」となります。どんな低賃金や労働時間を要求しても断れない労働者が増えれば、今正社員として働いている人の地位も危うくなります。経営者としては、なるべく人件費を抑えたいわけですし、高コストとなる正社員の枠を減らしていくでしょう。実際2008年には労働者に占める非正規社員の比率は34.1%に上りました。また、不当解雇を行った結果、正社員の仕事の量が増え、長時間勤務の常態化を促す要因にもなっています。セーフティネットの穴を放置することは、今健全に働いている人の労働環境も脅かすことになるのです。セーフティネットは決して困窮している人を一方的に救いあげるだけのものではなく、健全な労働環境を守る働きも担っているのです。

 残念なことに、自立生活サポートセンター・もやい及び反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠氏のもとには、「生活保護申請の手続きの手ほどきなどするな!」という抗議が寄せられることがあるそうです。しかし、そういった人達には、セーフティネットが彼ら自身の立場を守っているという面が見えていません。私はこの活動を通して、セーフティネットの役割の正しい理解を広めたいと思っています。

 今回のデモのターゲットはブラック企業ですが、それは第一のセーフティネットである雇用、そして第二のセーフティネットである雇用保険を適切に運用するべきだという主張の手段なのです。今年、生活保護の受給世帯数は過去最高に達したそうです。財源の問題も避けては通れませんが、そもそも生活保護を受けなくても生活できるようなシステムが正しく運用できていればこのような事態にはなっていないのです。だからこそ私はより予防的な公的支援に重きを置くべきだと考えています。

 私は「ブラック企業など潰れてしまえ!」と言いたいのではありません。その存在を許してしまう政府や世間に、現状の悲惨さ、早急な対応の必要性を訴えたいのです。

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改めてQ崎先生には敬服してしまいますよ。
微力ながら協力させてもらいます。

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