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2012年8月11日 (土)

「フツーの仕事がしたい」に学ぶ労組の役割と、「1人」の持つ可能性

みなさん、元気にお過ごしですか?

 私は先日、御茶ノ水のPARC自由学校で開催された「フツーの仕事がしたい」という映画の上映会に行ってきました。タイトルから想像できる通り、この映画はブラック企業の凄惨な実態を記録したドキュメンタリー映画です。主人公はバラセメントの輸送事業を行う企業に勤める皆倉さんという男性です。彼は高校卒業後、ドライバーとして運送会社に勤めます。彼の勤める企業の給与システムは完全歩合制という違法なものでした。彼の勤務時間は多いときで月に552時間。トラックで寝起きすることもざらにあり、彼は健康を損ねていきます。本気でヤバイと思った彼は、どんな職業の人でも加入できる労働組合に相談します。そして、会社との闘いが始まるのですが、そこに待っていたのは労組脱退を強要する脅迫との闘いの日々でした。

 というのがこの映画の前半のあらすじです。監督の土屋トカチ氏によると、不当な脅迫の証拠映像を撮るように依頼されたのがこの作品の始まりであり、当初はドキュメンタリー映画を撮るつもりではなかったとのことです。こちらの記事に監督の土屋トカチ氏のコメントが載っていますので、この映画について詳しく知りたい方はご覧ください。

ドキュメンタリー映画「フツーの仕事がしたい」を制作して

 こちらの作品、他の労働組合の人から「主人公が加入している労組の宣伝じゃないか!」と批判されることもあるそうなんですが、なんと海外13カ国の映画祭で上映され、そのうちイギリスとアラブ首長国連邦では賞を受賞しています。ただの宣伝目的で作られた映画なら、そのような賞を受賞することもなかったでしょう。

 映画自体ももちろん大変有意義なもので多くの人に観ていただきたいのですが、上映後の監督のコメントがとにかく素晴らしかったのです。監督のトカチ氏は取材のため長期にわたり皆倉さんとともに職場を訪れ、彼の悔しさや怒りを肌で感じてきました。その過程を涙ながらに語るトカチ氏の姿からは、彼の本気さが伝わってきました。

 そして、彼の話の中で私が最も面白いと感じたのは、海外での上映を行った際のお客さんの反応に国ごとにかなり違いがあったというエピソードでした。台湾や香港では「日本人はお金持ちで、誰もが美味しい食事や快適な家を手に入れることができて、みんな幸せに暮らしているのだと思っていた。こんな苦労しながら生きている人がいるなんて信じられない。」という感想をよく耳にしたそうです。まだ一億総中流というイメージがあるのでしょう。ヨーロッパでは、主人公に対して同情的な反応はなく、厳しい意見が多かったそうです。「こんな大変なことになる前に、なんでもっと早く闘わないんだ。会社のいいなりになりっぱなしなんて、日本人は愚かだ。仕事しかない生活なんて、生きている意味がない。」という意見が聞かれたそうです。日本人との人権に対する意識の差が浮き彫りになっています。アメリカでは、70分の上映時間のうち、最も盛り上がったのはエンドロールで「彼の勤めていた会社は事実上倒産した」という字幕が出た時だそうです。やはりアメリカではこういった勧善懲悪的な展開が好まれるのでしょうか。1つの映画に対するリアクションからも、国民性が垣間見えるという興味深いエピソードでした。私個人としては、ヨーロッパの人達の考えを支持したいですね。日本の労働に対する独特な風土の中で、1人闘うことを決めた皆倉さんの勇気には本当に頭が下がります。

 彼は高い教養があるわけではなく、またあくまで私の印象ですが特別正義感が強い人物というわけでもありません。そんな彼が「このままじゃまずい」という感覚に従い、行動を起こしたことで業界に大きな影響を与えたという事実に、とても大切な教訓が込められているように感じます。今私たちが価値を見直すべきなのは、教条的な正義や規律ではなく、人間の根底にあるより良く生きたいという欲求ではないでしょうか

 皆倉さんの仕事であるバラセメントの輸送は、就労者の数がそこまで多くない業界のようで、会社との今回の1件で業界の中で一躍有名人になったそうです。ブラックな待遇が当たり前だった業界の中で、会社と真正面から交渉し、待遇改善を勝ち取ったというのはそれほど異例のことだったのです。そして、彼の行動が業界全体に投げかけた波紋も思いの他大きかったらしく、他者に勤める同業者の中でも待遇改善の必要性を考える動きが出てきているそうです。

 トカチ氏は、「近年では波風を立てずに物事を解決するのが良しとされる風潮があり、闘うべき場面が見過ごされているのではないかと感じる」というコメントを残していました。権利を勝ち取るために闘うことは決して恥ずべきことではなく、むしろ称賛されるはずのことです。上映会に参加して改めて感じました。これからも社会正義のためにカメラを動かす土屋トカチ監督から目が離せません!

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コメント

僕もヨーロッパの人に賛成です。以前フィンランド教育の本を読んでいて、おもしろかった箇所がありました。
それは本の著者が日本の教師の労働かいかにひどいか、フィンランド人に言うと「なんで改善しようとしないんですか?」と怒られたらしいです。
その著者は同情をひこうと思ったらしいですけど僕もフィンラドの方とおなじく違和感がありました。
労働に関する知識は大事です。けど一番大事なのはこういうおかしい事をおかしいと思い、行動する事じゃないでしょうか?
日本人はあまりにも現状を受け入れすぎるきらいがあると思います。
なんか奴隷心が内面化している感じがします。

まさにDomoさんのおっしゃる通りです。
当事者が行動を起こさない限りは、何も事態は動かないでしょう。
しかし、日本は歴史的に見ても市民の社会参画を支える資源が乏しいと思います。
しばらくは手探りの状態が続くと思いますが、このような小さな成功例の積み重ねが、いつか大きく実を結ぶかも知れません。
震災以降、政府にまかせっきりではいけないのだと目を覚ました人も多くいます。
私も一般市民が社会形成に関わる流れを加速させる活動に携わっていきたいと思います。

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