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2012年9月 1日 (土)

仕事「居場所」論

 今回の記事は、「浦河ぱぴぷぺぽ紀行」に組み込もうかと思っていた内容ですが、働くということの意味について的を絞って考えようと思い、独立した記事に書くことにしました。おそらく多くの人が既に考えているであろうことなので、別段新しい発見があるわけではないのですが、改めて働くことの意味を考えることは決して無駄なことではないでしょう。

「居場所」としての職場
 浦河ぱぴぷぺぽ紀行では、べてるの家は就労支援活動も行っていると書きました。そしてそのことからは、働くことが金銭を得る以上の意味を持つということが導かれます。では、その「金銭を得る以上の意味」とは一体何なのでしょうか。それは、この記事のタイトルでは「居場所」と表しましたが、「生きがい」や「拠り所」とも言えるものでしょう。表現のしかたはいろいろありますが、「自分が認められているという実感」を得ることのできる場という意味を含むことは間違いないでしょう。

 浦川へ向かう道中、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)統括研究員の濱口桂一郎氏の著書『新しい労働社会 雇用システムの再構築へ』を読みました。その中の「賃金と社会保障のベストミックス」という章の「働くことが得になる社会へ」という項目に、働くことの意味を考える重要な記述があったので、引用したいと思います。

 ここで欧州に目を転じると、失業保険自体がかなり手厚い上に、無拠出の失業扶助もあり、さらに生活保護に当たる公的扶助もかなり寛大に給付されていました。これは福祉国家の理念からすれば望ましいことともいえますが、そのことによるモラルハザードは大きいものがあります。「失業の罠」や「福祉の罠」といった言葉で語られるように、働けるのに働かない人々をどうやって労働市場に引き戻すかが一九九〇年代以来の欧州の重要な政策課題となってきているのです。これは単に国家財政の負担軽減といった問題意識からだけではありません。公的セーフティネットによって生活は維持できても、仕事という形で社会の主流に参加できないことは社会から排除されているのだという認識が広がってきたことが重要です。寛大な福祉国家がその意図に反して社会的排除を産み出しているのであれば、新たな政策が目指されなければなりません。

私はこの項目を読んで思わず膝を叩きました。日本でも、一度社会保障の利用が必要な事態に陥ってしまうとなかなか労働市場に復帰できないという構造が問題視されています。しかし、「働ける人を労働市場になんとかして引き上げよう」という政策を立ち上げる際、その問題意識は欧州と日本とでは大きく異なります。欧州では労働市場から離脱している状態を社会的排除と解釈しているのです。日本では、その多くが国家財政を中心に考えるものであったり、当事者の視点であっても金銭面を心配するものであるように思います。ところが欧州では、出発点が国民の生の質の高さにあるのです。「働くのが得になる社会」というと、例えば生活保護の給付額と最低賃金の比較のような金銭的な問題を基盤に考えてしまいそうですが、そういった「居場所」としての価値も含めた本当の意味での「得」について考えるべきなのでしょう。その文脈では「仕事なんて選ばなければいくらでもある」「仕事が辛いのは当たり前」といった言説は全く意味を持ちません。仕事とは、単に金銭を得るための手段のことではありません。それは「私が認められる場」であり「幸せに稼ぐ場」でなければなりません。もちろん企業は利益追求団体であり、私たちの自己実現を保証する場ではありません。しかし、私たちが生きる場の1つである「職場」が快適で居心地の良いものになるよう働きかけるのは、より質の高い生を追求してきた人間の姿として、非常に真っ当なものであると思います。「家庭は次世代を育成するための機能を担う場であり、そこに幸福があるかどうかは問題ではない」「学校は知識と人間性を身につける場であり、生徒が幸福である必要はない」という意見に賛成する人はおそらくいないでしょう。仕事に対しても、同じことが言えるはずです。

「責める人」の存在
 その反面、仕事の「居場所」としての役割が肥大化していると思われる状況も存在します。ブラック企業撲滅デモを企画し始めた時期に考えていた労働者の「分断支配」の問題や、いわゆる「社畜」と称される企業の都合を内面化してしまう人たちの問題にも、仕事の「居場所」性が深く関係していると思われます。先程、居場所とは「自分が認められているという実感を得ることのできる場」であると説明しました。その実感の与え方に非常な歪みのある企業がブラック企業だと考えることができるでしょう。濱口桂一郎氏は日本の正社員の働き方の特徴を「ジョブなきメンバーシップ」と表しています。これは、1人1人の社員の仕事の領域(ジョブ)が明確ではなく、チームとして成果を出すことを求められる構造を明らかにするものです。それに対し、非正規雇用での働き方を「メンバーシップなきジョブ」と称し、仕事の領域は明確であるが有期雇用であるためメンバーシップを築きにくい情況があることを明らかにしています。日本の労働現場ではこの二極化が進んでいると濱口氏は述べています。こういった労働形態にはメリットもデメリットもあるのですが、仕事に対して給与を支払うというドライな雇用関係ではないということは確かだと思います。

 さて、ブラック企業にも様々なケースがあると思いますが、社員の相互監視の体制が敷かれているというのは多くのケースに当てはまるのではないでしょうか。そこで見られるのが、社員が同じ立場の社員のミスを責めるという光景です。もちろん仕事上のミスは他の社員に迷惑をかけることであり、当然そのカバーが求められることになります。しかし、そこで必要なのはカバーの方法の伝達であり、感情的な叱責に生産性はありません。本来同じ居場所で活動する仲間であるはずの同僚を責めるという行為に駆り立てるのは、同僚のミスが、自分が仕事に求める居場所性を脅かすものであると感じるからではないでしょうか。つまり、自身と同程度の居場所性を持たない同僚の存在が認められないのだと考えられます。

 こういった事態に対して私が思うのは「自分の価値観を他者に押し付けるのはいかがなものか」「多様性を認めるべきだ」ということです。「自分が認められているという実感」は、その人の生の質の高さに大きく関わる要素であり、どのような手段によってそれを得るかという選択肢が多く用意されているのが幸福な社会であると思います。また、職場が誰にとっても「幸せに稼ぐ場」であるためには、働き方の多様性が認められていること、労働基準法などのルールが守られていることが条件となります。職場を健全な居場所にしたいものです。

 また、同時に「1つだけの居場所に依存するのは健全ではない」とも思います。まず、1つの居場所に依存するということは、他の居場所から排除されていることを意味します。人は、家族や地域社会など、複数の居場所に所属することで社会を維持、発展させてきました。仕事一筋の主たる生計者(多くの場合は父親)が「家庭をかえりみない」ために家庭が機能不全を起こしているというケースは枚挙に暇がありません。個人的には、仕事に縛られて家族と一緒にいる時間が持てないのであれば、結婚によって家庭を持つことに意味を見出すことができません。昨今の非婚率の増加に労働環境や雇用情勢が深く関わっていることは間違いないでしょう。また、1つだけの居場所に依存すると、その居場所でのルールがその人の中で至上のものとなってしまい、本来ならそれより優先するべき規範(法律、道徳、良心など)を無視することに抵抗を感じなくなってしまうという弊害が生まれます。もちろんその居場所でのルールが法律などに抵触しないものであれば問題はないのですが、ブラック企業の問題はまさに法律違反が公然と無視されるという状況に集約されるのではないでしょうか。多くの不幸を生み出すブラック企業の都合を内面化してしまうことは、暴走族に入り暴走行為を行うことより質が悪いと言えるでしょう

 最後に、ホワイトアクション事例集を形にするためのアドバイスを、何人かの企業研究やワークライフバランスを研究する教授に伺いに行ったのですが、彼らは「学生達の多くは、企業のなかでの仕事の質ではなく、業種に強いこだわりがあったり知名度によって企業を選んだりする傾向がある」と嘆いていました。働くことの意味を包括的に捉え、健全に働ける環境を提供する企業風土を良しとする土壌を作るには、まだまだ時間がかかるのかもしれません。

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