フォト

twitter

ほしい物リスト

無料ブログはココログ

« だまされることの責任 願望と事実の混同 | トップページ | 理想的な生き方かも »

2013年4月12日 (金)

「やむなしブラック企業を救え!」って具体的にどうするの?

 以前「なぜブラック企業は生まれるのか やむなしブラック企業を救え!」なんて記事を書きました。その中で、執筆活動も盛んな人事コンサルタント城繁幸氏の『3年で辞めた若者はどこに行ったのか アウトサイダーの時代』を取り上げ、ブラック企業が生まれる構造を分析しました。そこで引用した一節を再度引用したいと思います。

 かつて高度成長期には、少人数の社員(もちろん男性中心だ)をフル回転で働かせることが、もっとも効率的な経営とされていた。大量生産の時代だから、頭より体で覚えるほうが重要で、そうやって熟練した労働者をこき使ったほうが効率的だったのだ。日本の専売特許である「残業文化」「有休返上」といったカルチャーは、ここに根っこがある。
ただし、経済が成熟すると、主導権は消費者の側に移る。大量生産ではなく、消費者の多様なニーズを汲み取ることが重要となったのだ。つまり、今度は体ではなく、頭で勝負する時代だと言える。男社会を基本とする年功序列は、既にその存在意義を半ば失っているのだ。

経済が成熟し、大量生産ではなく消費者の細かなニーズに対応できる多品種少量生産に切り替えなくては、企業はこれまでと同じような利益を上げることができない時代に入りました。その市場の変化に対応できず、本来とっくに倒産しているところを社員を長時間働かせることで無理矢理生きながらえているのがブラック企業の実態であると、前述の記事でまとめました。そのような状況にあって、「経営力のない企業が倒産するのは当然だ。社会正義のためにブラック企業は潰すべきだ」という主張をよく耳にします。この主張は至極真っ当なものであり、ブラック企業はそのように淘汰されていくべきものです。このブログを書き始めた当初は私も単純にそう考えていましたが、今では手放しで賛成はできません。それは、現在の日本社会が「やり直しが利かない」と言われる通り、失業した際の社会保障が手薄で再出発が非常に難しい状況にあるからです。ひとたび会社の倒産となれば、経営者、従業員共々文字通り路頭に迷うことになりかねません。順番としては、社会保障制度の改善により「安心して倒産(失業)できる社会」を作る方が先なのです。しかし、それは利害関係者が政策決定の場に参加するコーポラティズムの土壌のない日本では、経営者や労働者の立場で即時に実現できるものではありません。であれば、企業の経営方針を変化の急速な市場に対応させ、社員を長時間働かせなくてもやっていけるようにすることが、目下ブラック労働をなくすために取り得る有効な手段と言えるでしょう

 とは言え、年功序列と終身雇用を基盤とした日本の伝統型人事管理は多くの企業で長年実践されてきたものであり、市場のニーズに細やかに対応するために経営体制を改善するのは容易なことではないでしょう。そう考え始めた矢先、1冊の本に出会いました。それが、今野浩一郎氏の『正社員消滅時代の人事改革』です。どんなことが書かれた本なのかというと、「消費者の多様なニーズに応えなければ商品が売れなくなった」という経済市場の変化と「勤務時間や勤務内容に何らかの制約がある社員が多数派になりつつある」という働き方のニーズの多様化に対応するため、多元型人事管理に変えていこうという提案です。濱口桂一郎氏のブログにとてもわかりやすいまとめがありますので、そちらも参照してください。

 なにはともあれ、今野氏の提案をまとめてみましょう。『正社員消滅時代の人事改革』の第1章から第2章では、先ほど引用した城氏の市場の変化の分析と同様の指摘を、さらに細かく述べています。

わが国企業をとりまく市場環境は、「作れば売れる」市場から、「作っても売れないかもしれない、変化が速く不確実性の大きい」市場へと変化してきている。そのなかで企業は、経営目標を売上高や生産高等の経営規模を重視する伝統型から収益性や資本効率を重視する現状型に変えてきており、株式の持ち合いが縮小する、企業の資金調達が間接金融から直接金融に転換する等の資本・金融市場の変化もその動きを促進している。

そのなかで企業が生き残るには、市場が必要とする、それも付加価値の高い製品・サービスを迅速に生産し販売することが求められる。つまり、市場が「何を生産し販売するのか」を決め、企業はそれに追随するという傾向が強まるので、そこで展開される経営戦略は、市場のニーズを組織のなかに取り込んで戦略を立てるという意味から、マーケットイン型(あるいは市場決定型)にならざるをえない。

そのような経営戦略の転換は、社内での評価や働き方の変化を必要とすると今野氏は述べています。

しかし現状型になると、経営目標がプロセス成果から最終成果に転換し、組織が仕事の進め方の決定を現場に任す形態に変化するので、部門(個人)の業績を管理する仕組みは、仕事のプロセスではなく仕事の結果(成果)で管理し評価する傾向が強まる。
(中略)
 このように業績管理が結果を重視する方向に変化すると、部門(個人)にとっては、目標が納得できる形で設定されることが重要になるので、部門(個人)と会社(上司)が相談して目標を決める契約型の形式をとる傾向が強まる。多くの企業が導入している目標管理は、この契約型の仕組みとして機能している。これによって部門(個人)は目標の設定にコミットすることになるので、仕事のプロセスにとどまらず結果に対しても責任をとるということになる。

今野氏は、このように仕事の進め方の裁量を得て結果に対して責任を持つ働き方を組織内自営業型の働き方と呼んでいます。第3章でこれまでの伝統型の人事管理の限界を論じ、第4章では制約社員の増加という労働市場の変化に応じた人事管理の必要性を述べています。

労働市場の供給構造[働きたいと思っている人(労働力と呼ばれる)の特徴]は、少子高齢化を背景にして労働力人口が縮小する、女性、高齢者が増え労働力の構成が多様化するという二つの方向で大きく変化している。

この問題を解決するために企業がとれる基本的な方法は、採用対象層を拡大することである。新規学卒者総数が半減したとしても、たとえば、男性中心にしていた採用対象範囲を女性にまで拡大すれば、採用対象層は二倍に増加し過去のピーク時と変わらない規模になる。企業はもともと、経営の高付加価値化を実践するために「より高度な人材」の確保が必要とされ、そのためには、採用対象範囲を拡大せざるをえない状況におかれている。しかも、それを労働市場の人材供給力が低下するなかで行わなければならないのであるから、採用対象範囲は大胆に拡大される必要があるはずである。

このようにみてくると、企業で働く社員は無制約社員と多様なタイプの制約社員から構成されることになるが、ここで注意したいことは、制約社員が多数派に、無制約社員が少数派になりつつあることと、労働市場の多様化のなかで、その傾向がますます強まりつつあることである。(中略)そうなると社員の求める働き方は様々な制約と両立できる働き方へと変化し、人事管理はそれに合わせて再編される必要が高まるのである。

正社員と同等あるいはそれに類似した基幹的な業務に従事するパート社員が増えていること等を考えると、企業にとって、パート社員を有効に活用し、パート社員に意欲をもって働いてもらうことが重要な経営課題になりつつある。そうなるとパート労働法のいかんにかかわらず、企業は制約社員であることを配慮したうえで、パート社員を有効に活用し、適性に処遇するために人事管理を整備することが求められているのである。

第5章は「制約社員活用は世界の潮流」というタイトルで、欧米諸国で採用されている多元的人事管理が企業利益にいかに貢献しているかという事例を紹介しています。

改めて定義すると「ダイバーシティー・マネジメントとは、多様な人材を組織に組み込み、パワーバランスを変え、戦略的に組織改革を行うことである。ダイバーシティー・マネジメントの第一の目的は組織のパフォーマンスを向上させることにある」ということになり、そこでは人材の多様化(ダイバーシティー)が進むと、組織内の統合やコミュニケーションが阻害される等のコストが発生するものの、異なる情報、価値観をもつ多様な人材からなる集団が形成されることにより組織の創造性、問題解決力等が高まり経営パフォーマンスが向上するという関連が想定されている。

第六章では、伝統型人事管理を「1国2制度型」と呼び、改めてその形式の人事管理を維持していくことが困難となる背景を説明しています。

以上の「1国2制度」を支える無制約社員は基幹社員、制約社員は周辺社員という関係が様々な場面で崩れつつあり、基幹社員についてはライフスタイルと働くニーズの多様化がその背景にある。まずは親等の介護に直面する基幹社員、それも男性の基幹社員が増えつつあることが問題になる。

総務省の『労働力調査』によると、全労働者に占める六〇歳以上の比率は一七・二%(二〇〇九年)であり、今後も増加すると見込まれている高齢社員は全社員のほぼ五人に一人という時代になっている。これほどまでに拡大してくると、現役時代と異なる仕事を作ることは難しくなるうえに、経営の視点からみても本気になって有効活用をはからざるをえなくなるので、企業はますます現職継続型の活用政策をとると考えられ、それは高齢社員の基幹社員化を進めることになる。

「優秀な人材には高度な仕事を配分して、それに合った報酬を提供する」。この人事管理の基本原則に従えば、制約社員、無制約社員にかかわらず人材を活用するという多元型人事管理が優れているということになるが、それとともに第1章でも説明したように、高付加価値型経営を志向するわが国企業は人材活用力を高める必要があり、有能な制約社員を制約社員であるとの理由で活用しないことの損失は大きい。しかも、無制約社員の制約社員化が進みつつあることを踏まえると、現状の人事管理では、無制約社員の活用力も低下する恐れがある。

第7章では、多元型人事管理を実践する具体的な方法について詳しく説明しています。

第一には、会社(職場では上司)は社員(部下)に何の仕事を配分し、何の成果を出してほしいのかを、部下は上司から何の仕事を受け、何の成果を出すかを明確にする必要がある。第1章で説明したように、「どのような仕事を担当するか」が期待役割、「仕事を通してどのような成果をあげることが期待されているのか」が期待成果にあたり、両者を合わせて「業務」と呼ぶと、成果主義化に伴い「業務の明確化」が必要になる。「業務の明確化」がないままに、つまり明確な基準がないままに、仕事と成果に基づいて評価され報酬が決定されるとしたら、社員は人事管理に納得できず、労働意欲を低下させることになるだろう。

しかし、前述のように成果主義化が進むと、業務内容と配置される職場によって報酬とキャリアが左右されることになる。社員にとって業務と職場の決定にあたって自分の意志を反映させる機会をもつことが、具体的には上司あるいは会社と話し合い、納得したうえで決定を受け入れるというプロセスを踏むことが大切となる。働き方の組織内自営業主化が進めば、社員が顧客(つまり上司・会社)から仕事を受注する(仕事を受ける)にあたって当然必要になることなのである。ここでは、これを仕事配分と人材配置の交渉化と呼んでいる。

第7章では、これらの背景を考慮し、社員の目標管理制度や自己申告制度、社内公募制度が多元型人事管理を実践するために有効であると述べています。第8章では報酬管理という観点から多元型人事管理の実践を説明しています。

賃金を決めるための要素は労働意欲、能力、仕事、成果の四要素であり、企業が競争する市場は成果の先にある。伝統的賃金はこのなかの市場から最も遠い位置にある労働意欲と能力を重視する点に特徴があり、それゆえに市場環境の変化に対応できないという困難に直面している。そうなると賃金決定法は市場に近い、つまり市場の変化に対応しやすい仕事と成果の要素を重視する方向で再編される必要があり、それは働き方の組織内事業主化に対応する再編と同じ成果主義化の方向である。

根幹的な部分しか引用しませんでしたが、本書では多元型人事管理の実践の手法が非常に細かく具体的に説明されており、多くの企業経営者に読んでもらいたい良書と言えるでしょう。ワークライフバランスにも触れており、ブラック労働の解消という観点からみても、本書には大きな実行力があると感じました。さて、本書が説明する人事管理の転換の必要性から企業のとるべき方策をまとめると、以下のようになります。

・市場の成熟
・経営戦略がプロダクトアウト型からマーケットイン型へ
・プロセス成果ではなく最終成果が評価される組織内事業主型の働き方へ
・成果主義型の人事管理と契約型の仕事配分
・仕事配分と人事配置の交渉化
・それを実践するための手段として、業務の明確化、目標管理制度、自己申告制度、社内公募制度の導入

ざっくり説明すると、これまで日本の雇用慣行として根強くあったメンバーシップ型の雇用からジョブ型に切り替わることを示しています。ジョブ型に移行すればすべてが解決するわけではないという批判もありましたが、本書はジョブ型に移行するための有効なステップを説得力のある根拠を挙げながら説明しています。そういった雇用問題に関心のある人も、ぜひ本書を手に取ってみてください。

« だまされることの責任 願望と事実の混同 | トップページ | 理想的な生き方かも »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1588989/51202913

この記事へのトラックバック一覧です: 「やむなしブラック企業を救え!」って具体的にどうするの?:

« だまされることの責任 願望と事実の混同 | トップページ | 理想的な生き方かも »

2015年4月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    

最近のトラックバック